
お腹の痛みや張り、下痢・便秘を繰り返すと、「何を食べたらよいのか」と悩みます。IBS(過敏性腸症候群)では、食事や無理のない運動が症状の軽減に役立つことがあります。低FODMAP食はその選択肢です。まず原因を確認し、生活の土台を整えたうえで、自分に合う食品と量を探しましょう。
食事を変える前に、受診が必要な症状を確認
IBSは、腹痛とともに、下痢・便秘などの便通の変化を繰り返す病気です。腸の動きや刺激の感じ方、食事、脳と腸の相互作用などが関係します。「気のせい」や「生活の乱れだけ」で起こるものではありません。下痢型・便秘型のほか、両方を繰り返す場合もあります。
ただし、腹痛・下痢・便秘があるというだけで、IBSと自己判断することはできません。血便・黒い便、意図しない体重減少、発熱、夜中に目が覚める下痢、貧血を指摘された場合、新しく始まって続く便通の変化などがあれば、食事制限を始める前に受診してください。
吐いて水分がとれない、尿が少ない、ふらつく場合は、速やかに医療機関へ相談してください。突然の激しい腹痛、激しい腹痛の持続、多量の出血、意識がもうろうとする場合は、通常の予約を待たず119番で救急車を呼んでください。
診察では、症状の続き方、薬、食事、体重変化などを確認し、必要に応じて血液・便・内視鏡などの検査を検討します。すべての方に同じ検査が必要なわけではありません。
FODMAPとは?お腹が張る仕組みと食品の考え方
FODMAP(フォドマップ)は、小腸で吸収されにくい糖質などの総称です。乳糖、余剰の果糖、フルクタン・ガラクトオリゴ糖、ソルビトールなどの糖アルコールが含まれます。

低FODMAP食は、この負担を一時的に減らし、症状との関係を確かめる方法です。FODMAPを食べた方全員に症状が出るわけではありません。
「体によい食品」でも、量によって合わないことがあります
玉ねぎ・にんにく、小麦製品、牛乳、りんご、一部の豆類などは、FODMAPが多くなる食品の例です。シュガーレスのガム・あめに含まれるソルビトールなども、お腹がゆるくなる原因になることがあります。
これらは「悪い食品」ではありません。FODMAP量は種類・食べる量・加工方法で変わり、少量なら問題のない方もいます。全員が同じ食品を避けたり、ヨーグルト・発酵食品を増やしたりする必要はありません。
なお、小麦に含まれるFODMAPの一つはフルクタンという糖質で、たんぱく質のグルテンとは別物です。低FODMAP食は、食物アレルギーの検査や、すべての小麦製品を避ける食事と同じではありません。
まず整えたい、食べ方・便通・生活の土台
食事のリズムと、負担になる習慣を見直す
欠食後のまとめ食いを避け、なるべく規則的に、落ち着いて食べましょう。脂っこい食事、アルコール、カフェイン、刺激の強い料理で症状が出る方は、量や頻度を一つずつ調整します。FODMAPだけが食事の刺激ではありません。
飲み物も含めて、何をどれくらい摂ったかを振り返ると手がかりになります。水分はこまめに補いますが、心臓・腎臓などの病気で水分制限がある方は主治医の指示を優先してください。下痢が続いて水分を保てないときは、食事の工夫だけで様子をみないでください。
便秘では、食物繊維を一気に増やさない
ふすま・大量の生野菜・豆類を急に増やすと、ガスや張りが強まることがあります。IBSでは「水溶性食物繊維」が役立つ場合があります。オート麦などを少量から試し、体調を見て調整しましょう。
低FODMAPを意識するあまり、野菜や主食まで減らしすぎると、食物繊維・エネルギーが不足し、便秘の対処が難しくなることがあります。便秘薬を使っている方は自己判断で中止せず、便の硬さや回数を医師に伝えてください。
無理のない運動と休息を取り入れる
散歩などの続けられる運動が、IBSの症状軽減に役立つことがあります。体力や持病に合わせて短時間から始め、便意を我慢し続けず、トイレの時間も確保しましょう。
睡眠・休息も大切ですが、それだけで改善すると断定はできません。緊張で症状が出ても努力不足ではなく、薬や心理面への支援も組み合わせてよい病気です。
低FODMAP食は「減らす→戻す→自分に合わせる」の3段階
生活を整えても困る症状が続き、医師がIBSと診断した場合に検討します。全員に効果があるわけではなく、日本人での実践方法や効果には研究が必要な面もあります。可能であれば、IBSの食事療法に詳しい管理栄養士と医師に相談します。

1.まずは2〜6週間、栄養を保ちながら置き換える
主食・たんぱく源・野菜などを確保し、FODMAPが多い食品を少ない食品へ置き換えます。食事量そのものを減らす方法ではありません。腹痛・張り・便の状態を確認します。
2〜6週間で改善がなければ、制限を増やしたり何か月も続けたりせず、医師と診断やほかの治療を見直します。
2.落ち着いたら、食品を戻して種類と量を確かめる
症状が軽くなったら、基本の食事を保ちながら、一つのFODMAPの種類を量を調整して数日間確認します。複数の食品を一度に戻すと、症状との関係が分かりにくくなります。
食品・量・試す間隔は専門家と相談し、強い症状が出たら無理に続けないでください。少量なら食べられる範囲が見つかる場合もあります。
3.食べられるものを戻し、必要最小限の調整にする
長期的には、症状が出やすい食品や量だけを調整し、食べられる種類を増やします。耐えられる量は変わることもあり、状況をみて再確認します。
お子さん、妊娠・授乳中の方、やせや栄養不足がある方、食事への強い不安がある方は、自己流の厳しい制限を避けてください。糖尿病や腎臓病などで食事療法中の場合も、別の制限を重ねる前に主治医へ相談が必要です。
日常の食事で試すなら、禁止リストより「置き換え」
食品選びの参考に、低FODMAP・高FODMAPの例を48種類まとめました。低FODMAPでも無制限に食べてよいわけではなく、高FODMAPも一律に禁止する食品ではありません。食べる量・原材料・加工・熟し方で変わります。

食品名を文字で確認する:主食・乳製品・たんぱく源
主食
低FODMAPの例:ご飯、オートミール、米粉パスタ
高FODMAPの例:小麦パン、うどん、小麦パスタ
乳製品
低FODMAPの例:乳糖なし牛乳、カマンベール、硬めの熟成チーズ
高FODMAPの例:牛乳、ヨーグルト、アイスクリーム
たんぱく源
低FODMAPの例:卵、味付け前の肉、味付け前の魚、木綿豆腐
高FODMAPの例:大豆、ひよこ豆、レンズ豆、玉ねぎ入り加工肉

食品名を文字で確認する:野菜・果物・甘味・ナッツ
野菜
低FODMAPの例:にんじん、きゅうり、なす、じゃがいも、チンゲン菜、レタス
高FODMAPの例:玉ねぎ、にんにく、アスパラガス、カリフラワー、マッシュルーム、グリーンピース
果物
低FODMAPの例:グリーンキウイ、みかん、オレンジ、パイナップル
高FODMAPの例:りんご、梨、マンゴー、すいか
甘味・ナッツ
低FODMAPの例:砂糖、メープルシロップ、くるみ、ピーナッツ
高FODMAPの例:はちみつ、ソルビトール入りガム、カシューナッツ、ピスタチオ
豆類は缶詰の汁を切って水洗いしたものや少量なら、低FODMAPとなる場合があります。豆類をすべて避ける表ではありません。また、小麦製品も種類・量で変わり、乳糖なしのヨーグルトなどは通常の商品と異なります。加工食品は商品名だけで決めず、原材料も確認してください。
- 牛乳で張りやすい場合も、乳製品をすべてやめてカルシウム源まで失わないようにします。
- りんごからキウイ・みかんなどへ替える場合も少量から。果物をまとめて大量に食べないようにします。
- 玉ねぎ・にんにくが多い料理は、にんじんなどを使う料理も選び、スープ・ソースの原材料を確認します。
たんぱく源は味付け前の魚・肉・卵、木綿豆腐などを組み合わせます。脂の多い料理や、にんにく・玉ねぎを含む味付けは別の負担になり得ます。ご飯・焼き魚・にんじんの副菜などを出発点に、体格・持病・量に合わせて調整しましょう。
食事と便通のメモを、診察で使える形に
細かい計算より、以下を短くメモして診察にお持ちください。
- 食事何時に、何を、どれくらい食べたか
- お腹の症状痛み・張りの強さ、食後何時間くらいで出たか
- 便通回数、硬い・普通・水っぽい、排便で痛みが変わったか
- 生活・薬睡眠、緊張する出来事、服薬や量の変更
一度症状が出た食品が、必ず原因とは限りません。量・疲れ・薬なども振り返り、一つずつ確認します。記録が負担なら項目を減らし、受診が必要な症状があればメモが揃うまで待たないでください。
低FODMAP食とIBSについてよくある質問
低FODMAP食でIBSは治りますか?
症状の軽減に役立つ方はいますが、全員に効果があるわけではありません。病気を治すと約束できる方法ではなく、薬などと組み合わせて、困る症状や生活への支障を減らすための選択肢です。
制限はずっと続けたほうがよいですか?
厳しい制限を長く続けることは目標ではありません。短期間の調整で変化を確認したら、食品を戻して、必要な範囲だけに調整を絞ります。食べられる食品や量を増やしていくことが大切です。
グルテンフリー食品に替えればよいですか?
グルテンとFODMAPは別のものです。グルテンフリーでも、ほかのFODMAPを多く含む商品があります。小麦アレルギーなどが疑われる場合は食事変更の前に相談し、原因を確認してください。
便秘が中心でも低FODMAP食は役立ちますか?
便秘を伴うIBSでも、張りや腹痛が軽くなる場合があります。ただし、制限で食物繊維や食事量が減ると、便秘の対処が難しくなります。便秘そのものの治療、水分、食物繊維の種類・量をあわせて考えます。
参考情報
- 日本消化器病学会:機能性消化管疾患診療ガイドライン2020―過敏性腸症候群(IBS)、CQ3-1・CQ3-2
- Monash University:Starting the low FODMAP diet(3段階の進め方)
- Monash University:About FODMAPs and IBS(仕組みと食品の例)/豆類と加工方法(2016年)/食事の組み立て(2021年)
- NIDDK:Eating, Diet, & Nutrition for Irritable Bowel Syndrome(食物繊維と食事療法)
- 消防庁:救急車利用ガイド(日本語併記)、大人の救急症状
情報確認日:2026年10月18日。日本消化器病学会の上記資料は2020年版、NIDDKの上記資料は2017年11月最終レビューです。この記事は一般的な情報です。診断や栄養状態に応じた食事療法は、医師と相談して進めてください。




